赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「忠誠を誓う君主からの命令の元、俺の女に無粋にも触れたこと後悔させてくれる」
スヴェンは懐のナイフを構えて、メドレスと瞬時に距離を詰める。その首筋に向かってナイフが突かれるのと、シェリーの体が引き寄せられるのはほぼ同時だった。
ナイフはメドレスの首の皮膚をあと一ミリでも動けば傷つける距離で止まっている。スヴェンはガーネットの瞳を鋭く光らせ、メドレスを視線で射抜いた。
「証言台に立て。さもなくば、お前の命はここで散るものと思え」
ナイフの切っ先を突き付けられたメドレスは鼻水を垂らしながら、小鹿のようにプルプルと震えて何度も首を縦に振っていた。
シェリーを抱きしめながら、怯えるメドレスにスヴェンは尋問のごとく続ける。
「それで、お前の証言以外に毒殺ではないと証明できるものは残っているのか?」
「そっ、それなら……薔薇の棘に毒を塗り、前国王陛下の部屋に落としたメイドがいたはずです。あの女も金を必要としていましたからな」
「その女はどこにいる?」
「じょ、城下町の教会で修道女をしているとか」
「わかった。ではお前は出番がくるまで監禁させてもらおう」
スヴェンがサラッと告げた言葉にメドレスは「監禁!?」と青い顔をする。
そんなメドレスなどどこ吹く風で、ウォンシャー公爵が「それなら俺が引き受けるよ」とスヴェンと話し合いを続けていた。
その間アルファスは黙りこくっており、シェリーはそっとスヴェンの腕から出ると彼のもとへと歩み寄る。
背中に「シェリー?」というスヴェンの声が聞こえたが、シェリーの行動の意図が読めたのか、それ以上呼び止めることはしなかった。
「アルファス様、よく耐えましたね」
きっと、父を死に追いやったメドレスを生かすことに怒りを覚えているはず。
そして、復讐したいとさえ思っているかもしれない。けれど、彼はじっとなにかに耐えるように唇を引き結び、最後まで怒号を浴びせることはなかった。
「僕には個人の怒りよりも優先しなくてはならないことがあるからな。王族に蔓延る悪を一掃するために、国王として今は耐えると決めた」
悔しさを押し込めて強気に笑うアルファスを見て、たまらず抱きしめようとした。でもそれは、彼の決意を軽んじるよう泣きがしてやめた。
代わりに、強くうなずいて笑ってみせる。