赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ご立派です。あなたの決断に敬服いたします」
「ありがとな。シェリーに褒められるのが一番うれしい」
笑い合っていると、後片付けをウォンシャー公爵に任せてスヴェンは「ふたりとも、無事だな」と声をかけてくる。
「ここの処理はガイに任せて、俺たちは教会にメイドを探しに行くぞ」
「差し出がましいかもしれませんが、指名手配されているスヴェン様たちが城下町に赴いて大丈夫なのでしょうか?」
偽の情報とはいえ人質に取られているはずのシェリーや王妃の毒殺に関与したとされるスヴェンとアルファスが町にいたら、騒ぎになるのではないか。
心配になってスヴェンの顔を見上げていると、頭に手を乗せられる。
「だが、ガイが目立った動きをすると大公殿下に怪しまれる。城の動きを把握するには、あいつの協力が必要不可欠だからな」
「だから、私たちが行く必要があると?」
「そういうことだ。それに城下町の教会はガイルモント公爵の活動の拠点でもある。あの方は公爵として国に仕えながらも、第三者として物事を観察しているからな。大公を悪だと断定できる証拠があれば、味方になってくれるやもしれん」
議会を構成する四公爵のひとりガイルモント公爵は、王族とは別に発生した主に民から支持のある宗教団体の長だ。
全教会の司教、使徒に対して普遍的な権威を持ち、その力はすべて正しきことにしか奮わないのだと城でも有名な話だ。
「このままの恰好なら、正体に気づかれないだろう」
スヴェンは黒い前髪を指先でいじると、悪戯な笑みを浮かべる。彼の余裕な表情にシェリーは「それもそうですね」と肩の力を抜くことができた。
「スヴェン様がそう言うと、なんでも大丈夫な気がしてきます」
「任せておけ。なにかあったとしても、この俺がシェリーを守る」
まっすぐに伝えられる言葉に感極まって、どう返事をすればいいのか言葉に迷ったシェリーは躊躇いがちにスヴェンの手を握る。
「ありがとう、ございます」
「シェリーは律儀だな。そういうところも気に入っている」
繋がれた手を握り返されて、シェリーは思わず微笑んだ。
この場をウォンシャー公爵に任せて荷馬車に乗り込んだシェリーたちはすぐにメドレス邸を立ち、教会に向かった。
馬車の荷台から見えるのは活気づく町の人々。お昼時で人も多くシェリーは帽子をさらに深く被りなおす。
三十分ほど馬車を走らせたところで、正面に真っ白な外壁に天使の像がいくつも浮き彫りにされた建物が見えてきた。
屋根には大きな黄金の十字架が掲げられており、太陽の光を反射して神々しく輝いている。