赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「あれが、ガイルモント公爵の活動拠点であるダオスエルマ教会だ」
そう教えてくれたスヴェンに、シェリーはゴクリとつばを飲み込む。門前で馬車を降りる際も正体がバレやしないかと心臓がドクドク騒いでいた。
しかし、教会前に立つ神官たちは素性を聞くことなく危険物の所持がないかだけを確かめると中へすんなり通した。
神官に案内されて聖堂に続く長い廊下を歩きながら、不用心すぎやしないかと驚いているとスヴェンがこっそり教えてくれる。
「ここは、どのような罪を犯した人間も受け入れる最後の駆け込み場だ。懺悔する気があるのなら滞在させ、更生まで命の保証を認めているのだ。だから訳ありの来訪者には慣れているのだろう」
どうりであっさりと中へ通してくれるわけだと、スヴェンの言葉に納得したシェリーは納得するようにうなづく。
足元の上質な赤い絨毯以外、白い柱や壁に囲まれている廊下の突き当りで足を止めた神官は十字架や天使の彫刻がなされた見開きの大扉の前でシェリーたちを振り返る。
「まずはガイルモント教皇様に、懺悔をなさってください」
そう言って神官が開け放った先に広がっていたのは、ステンドグラスから差し込む虹色の後光をまとった十字架とその両側に立つ二対の女神。
どこか新鮮な空気が流れる聖堂の祭壇には宝冠を被り祭服を身に纏った白髪の老人が立っていた。
その姿は即位式のときにも見たのでわかる。祭壇でこちらをじっと見つめる老人こそ、ガイルモント公爵だ。
先の神官の口ぶりで、どうやら教会では公爵ではなく教皇と呼ばれているらしい。
「迷える罪人よ、ここへはなにを懺悔しにきた」
ここへ案内してくれた神官は静かに聖堂を退出し、ガイルモント公爵とシェリーたち四人だけがこの場に残された。
「もしここが本当に、罪人さえ受け入れる慈悲深き場所だというのなら――」
そう言いながらスヴェンは、茶番は終わりとばかりに鬘に手をかけると口元に笑みを浮かべて迷いなく脱ぎ捨てる。
「王妃の毒殺疑惑をかけられた私の話を聞いてくれるだろうか、ガイルモント公爵」
「なっ、そなたは――」
赤髪を晒したスヴェンの姿を凝視して、ガイルモント公爵は言葉を詰まらせながら「スヴェン・セントファイフ公爵!」と声を上げる。
指名手配されているはずの人間を前に驚愕の表情を浮かべてはいたが、ガイルモント公爵は逃げ出そうとしなかった。