赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「セントファイフ公爵の話とは、なんのことでしょう」
「まず、私たちにかけられた罪状は根の葉もない大公殿下の虚言だ。あの方は私と国王陛下を陥れ、地位と前王妃を手に入れようとしています」
スヴェンの話を聞いたガイルモント公爵は「なんと、それが事実ならば由々しき事態ですぞ」と戸惑いを見せる。そこへスヴェンは、さらなる事実を突きつけた。
「前国王の死も病ではなく毒殺だ。かつて王医であったメドレス・パルミーダから、心臓発作は嘘りの診断結果だったと証言を取っている」
「なんということだ……」
額に手を当てて青い顔をするガイルモント公爵は、気持ちを落ち着かせるためか深呼吸を繰り返した。
考えを整理するかのように胸に手を当てたガイルモント公爵は、静かにスヴェンを見据える。
「確かに前国王の死には不可解な点が多かった。だが王妃の毒殺未遂に関しては、あなた方が主犯でないと断言できるものはない」
ここでガイルモント公爵を納得させられなければ、スヴェンとアルファスは大公に身柄を引き渡されてしまうかもしれない。
そう思ったら、とっさにシェリーの体は動いていた。深々と被った帽子を取り、薄桃色の髪がふわりと肩に落ちると、スヴェンの隣に並ぶ。
スヴェン視線を頬に感じたが、今は目の前のガイルモント公爵に集中した。
「そなたは……国王付きのカヴァネスではないか!」
人質にされているはずのシェリーの姿はガイルモント公爵も即位式で目撃しているので、ここにいるのが本人だと証明するのは容易かった。
「私は国王付きカヴァネスのシェリー・ローズと申します。町に出された御触れでは私が人質になっているとのことですが、それは事実無根です」
「どういうことでしょうか、シェリー殿」
ガイルモント公爵がこちらに体の向きを変えるのを待って、頭を整理しながらあの日の出来事を振り返る。
「あの日前王妃様を毒殺するのに使われた薔薇と庭園の薔薇は色が似ていますが、まったく別の品種でした。私の邸にその薔薇がありますので、確かめたければ庭師を呼んでくださればお見せします」
「国王陛下がその薔薇を摘みに行ってないとは、言い切れないでしょう」
「一国の王であるアルファス様が勝手に城外に出れば、騒ぎになります。それに気づけないほど、城の警備は甘かったでしょうか?」
王城の門には必ず門番が二名立っている。
それに警備体制は戦に長けたスヴェンが整えているのだから、内部での謀反が起きない限り城の守りは完璧だろう。