赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「その通りだ。門番はその日の来客や外出の人名、人数を把握している。アルファス様が許可なしにそこを出るのは到底無理だ」


 スヴェンが加勢するとガイルモント公爵は「むう」と悩むように唸り、固く瞳を閉じてしまう。

なにを信じるべきか、思考を巡らせているのかもしれない。審判を待つような気持ちになり、居ても立っても居られずにもう一度説得する。


「薔薇を入手する手段がないアルファス様が薔薇を持っていたということは、誰かから渡されたということになります」

「それが大公殿下だと、シェリー殿も言いたいのですね」


 返事の代わりに、肯定の意味を込めてガイルモント公爵にうなづいた。

 公爵相手にここまではっきり意見を述べるのは、生きた心地がしない。

でもガイルモント公爵の淀みない瞳はただ真実を追求しているだけに思えて、自分のような低い身分の女の話にも耳を貸してくれると信じられた。


 緊張で強張るシェリーの肩に、あとは任せろとばかりに手が乗せられる。隣を見上げれば、スヴェンが目を細めて微笑んでいた。

たったそれだけで、もう大丈夫だと確信をもってうなづける。
 シェリーが一歩下がったのを見届けて、スヴェンは続けた。


「そしてここには、前国王の毒殺に関わったメイドが修道女として匿われているという確かな情報を得ている。その者に証言してもらえれば、なにもかもはっきりするだろう」

「……しかし、私にはどのような罪人であっても一生を懺悔に尽くすというのなら、その者を守る義務がある。簡単に突き出すことはできない」


 ガイルモント公爵が罪人を守ろうとすることを責めることはできない。それは公爵でありながらも、教皇としての役目を果たそうとしているからだ。

なので否定することはできないが、本当にそれは正しいことなのだろうか。


「ガイルモント公爵、あなたは守るの意味をはき違えている。神に向かって懺悔したところで、失った者は帰ってこない。そして遺族も報われん」

「セントファイフ公爵、それでも罪を犯した人間を俗世に返すことはできない。罪人は後ろ指を刺され、いつ自分のしたことの報いを受けるのかと怯えてくらさねばならん。人目のない場所で匿い、守る必要がある。咎を背負っていても、失われていい命はないのだ」


 お互いの信念が食い違っている限り、話し合いは平行線になる。どうすればいいのかと悩んでいると、すぐ側を温かい気配が通り過ぎた。

 振り向くより先に、前に立つ小さな背中。それがアルファスだと思った瞬間、静かにその帽子を脱いだ。姿を現した美しい銀髪に、ガイルモント公爵は「国王陛下!?」と目を見張る。

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