赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ガイルモント公爵、スヴェンの言う通りだ。あなたのしていることは守るのではなく、罪悪感から目をそらしているだけだと僕は思う」
「陛下……」
「僕も自分の軽率な行動のせいで、母様を危険な目に合わせたからわかる。どんなにあれは自分のせいじゃない、神様に祈っていればいつか許されるだろうと思っていても、消えないんだ」
アルファスは胸を押さえて、苦しそうに言葉を絞り出す。
「罪は消えないんだよ。だからきっと、そのメイドも大公に手を貸した理由はわからないけど、苦しんでると思う。罪を受け入れて生きることが、救われたいより先に僕らがしなければいけないことだ」
はっきりと自分の過ちを受け入れて発言する彼は、眩しかった。どんなに周りの人間が悪くないと言っても、結果的に自分の渡した薔薇のせいで母親を傷つけてしまった事実は変わらない。
それをアルファスは自分の罪として認め、二度と誰も傷つかないように強くなろうと努力している。そんな彼の言葉は、誰のどんな言葉より説得力があった。
「陛下のお考えにこのガイルモント、感服いたしました」
ガイルモント公爵は床に片膝をついて、深々と頭を垂れる。
「自分の成すべきことを迷いなく口にされた陛下の目は、とても澄んでおられた。私も教皇として多くの罪人や事情を抱えた人間を見てきていますので、その者が嘘をついているか否かはわかります」
「ガイルモント公爵、では大公が悪だと信じてくれるのか?」
「私自身は信じていますが、ガイルモント公爵の名と爵位を背負っている以上は簡単に決めることができません。ですが、助力はいたしましょう」
そう言って立ち上がったガイルモント公爵は、扉に向かって「ヨエルをここに」と声をかけた。
ガイルモント公爵はこの一件に関わったメイドに心当たりがあったのか、迷いなくヨエルという名を出す。
しばらくして二十歳くらいだろうか。肩までしかない短髪の少女が聖堂にやってくると、ガイルモント公爵の前で膝をついた。
「教皇様、いつかこのような日がくると予感しておりました」
ヨエルはここに呼ばれるまでの間に神官から何かを聞いたのか、すでに悟っている口ぶりで言う。
ガイルモント公爵はその小さな肩に両手を乗せると、ゆっくりと視線を合わせるようにして屈んだ。
「君の力を必要としている人たちがいる。罪を認め、遺族である国王陛下のために勇気を振り絞ってくれやしないだろうか」
ヨエルは「国王陛下……」とガイルモント公爵の言葉を復唱し、振り返る。アルファスの姿をその目に映した途端、ぶわっと涙を浮かべた。