赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「いいえ……いいえ、アルファス様。間違ってなどいません」
首を横に振って笑みを返すと、アルファスはホッとしたように息をつく。
「僕の先生がそう言うんなら、この道で間違ってないな。ヨエル、今度はこの国のために真実を話してくれないか」
「国王陛下……。はい、それが私のするべきことですから」
涙を手の甲で拭ったヨエルは、アルファスに尊敬の眼差しを向けてそう言った。
「証人の身の安全は俺が保証しよう。ガイルモント公爵、彼女を議会の証言台に立たせることを許可してもらえるだろうか」
誠意を込めて左胸に手を当てるスヴェンを見たガイルモント公爵は「私も協力させてもらいましょう」と握手を求めた。
「いつ仕掛けるのかは、追って連絡させてもらう」
差し出された手を固く握り返したスヴェンは、そう言って踵を返すとシェリーたちの元へ歩み寄る。
「承知しました。お帰りの際は気をつけて」
背中越しにガイルモント公爵の声を聞きながら、シェリーたちは行きで使った荷馬車で邸へと戻るのだった。
三時間かけて邸に戻ってくると、シェリーは扉に折りたたまれた紙が挟まっていることに気づいた。
首を傾げながら手を伸ばすと「待て」とスヴェンに手首を捕まれる。
「毒が付着している可能性もある。お前は触れるな」
そう言って懐に手を差し込むと「普段は煩わしくて、外しているんだがな」と苦笑いして白い手袋を取り出す。
「これは公爵の身だしなみだからとセントファイフ家の執事が買い揃えたものなのだが、剣は素手で握らないと感覚が鈍る。長らく使っていなかったのだが、このようなところで役に立つとは思わなかった」
手袋をはめたスヴェンは、紙を開いていく。
そこに書かれていたのは、ガイ・ウォンシャーの名前と【大公殿下に勘付かれた。決行は明日の晩に】というメッセージだけだった。
「これ……ウォンシャー公爵になにかあったのか?」
背伸びをして、紙をのぞき込んでいたアルファスの顔に緊張が走る。
勘付かれたということは、ひとりでメドレス邸に残った彼になにかあったと考えるのが自然だ。
ただでさえこちらには味方が少ないというのに、ウォンシャー公爵を失った痛手は大きいものになるだろう。
膨れ上がる不安に呆然と立ち尽くしていると、「大丈夫だ」とスヴェンの力強い声が頭上から降ってきた。
顔を上げれば、スヴェンは安心させるように笑いかけてくれる。それに不思議と、張っていた気が抜けた。