赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


 まさか、そのルゴーン家のお屋敷にある薔薇と同じということだろうか。しかもそれが大公の服についてるのはなぜかと、戸惑いの眼差しで花びらを見つめる。


「ルゴーン家に黒薔薇など咲いていたかね? 君はやけに、ルゴーン家のことに詳しいようだな」


 大公の疑心に溢れた目がウォンシャー公爵に注がれる。


(やっぱり、ウォンシャー公爵がアルファス様を狙っているの? だとしたらなぜ、私に助言をするのかしら)


 空気が張り詰めると、シェリーは呼吸することさえできずに軽い眩暈を覚える。


「あっ」


 気づいたときには体が後ろに倒れており、大理石の床にぶつかるかと思われたが、すぐに誰かに抱きとめられる。

青い顔で振り返れば、そこには心配そうに見つめてくるスヴェンの姿があった。


「大丈夫か、シェリー」

「は、はい……ありがとうございます。スヴェン様」


 抱きとめてくれたのがスヴェンだと知って、ホッとしたシェリーは笑みを返した。

 スヴェンはシェリーを抱く手に力を込めながら、大公殿下とウォンシャー公爵の顔を見比べる。


「立ち話ですか? 議会はもう終わりましたでしょう」

「セントファイフ公爵、その通りだ。それでは、お開きにしよう。シェリー殿、気をつけて帰られよ」


 大公はそう言って踵を返すと、廊下の向こうへ姿を消してしまった。


「まったく。危ないところだったね、シェリー譲」

「え、私ですか?」


 ウォンシャー公爵がやれやれといった様子で、シェリーの肩に手を置こうとする。

 突然のことで避けられずにいると、スヴェンがすかさずその手を振り払い、ウォンシャー公爵を鋭く見据えて言った。


「触らないでもらおう」


 彼の圧を感じ取ったのか、ウォンシャー公爵は後頭部に手を当てて呆れたように「まいったね」と言葉をこぼした。

 そして、いつもの飄々とした態度とは打って変わって、厳しい視線をスヴェンに向ける。


「二度と大事な人を失いたくないのなら、そばに置いて片時も話さないようにしないと、今度は彼女を奪われるぞ。スヴェン」

「それが本性か、ウォンシャー公爵。あなたが俺に忠告する真意はどこにある?」


 警戒心を解かないまま、スヴェンはシェリーを胸に抱きこむ。その腕の中で、ウォンシャー公爵の豹変ぶりに言葉を失っていた。

 ますます誰が怪しいのかわからなくなり、不安になったシェリーはスヴェンの胸元の軍服をギュッと握った。


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