赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「できれば、スヴェン公爵とシェリー譲の三人で話したいんだけど、君は席を外してもらえるかな」

「かしこまりました」


 ウォンシャー公爵は報告に来た騎士を下がらせると、改めてシェリーとスヴェンの顔を見渡した。


「薔薇、毒……。スヴェン、似通った事件だとは思わないかい?」

「前国王の毒殺のことと、なにか関係がありそうだな。あのとき、部屋で倒れていた前国王の傍らには黒薔薇が落ちていた」

「城お抱えの医者は心臓発作って言ってたけど、薔薇の棘には毒が塗られていた。それを知らずに前国王は触れてしまったから、殺されたんだと考えられる」


 ウォンシャー公爵の言葉にスヴェンも難しい顔で腕を組みながら「今回の手口と大いに似ている」と頷いていた。


「その黒薔薇がルゴーン家の庭園に咲いていたものと一致したから、君は毒殺を疑ってかつて騎士公爵だったルゴーンを捕えた。でも国王の死因は心臓発作として扱われ、大公殿下に身柄を引き渡したんだったね」


 奥歯を噛みしめて「そうだ」と怒りに声を震わせるスヴェンを見て、戦友だった前国王の死の真実を曲がった形で片づけられたことが悔しかったのだろうと思った。


 ルゴーンが毒殺をしたという決定的な瞬間を目撃した者がいないので、証明できなかったのかもしれない。


「国王は心臓発作などではない。これまで病など、なにひとつかかったことがないのだぞ。それに毒の塗られた薔薇はどう説明する」


 それだけでも大きな証拠になりそうなのに、医者の言葉を鵜呑みにするなんておかしい。
庶民のシェリーでも疑問に思うのに、誰も異論は唱えなかったのだろうか。


「そうだね、俺も変だと思うよ。でも医者の言葉の方が信憑性があるとして、心臓発作という死因は変えられなかった」


 前々からウォンシャー公爵は、前国王の死因を毒殺だと疑う発言をしていた。そう考えると、この状況に異論を唱えた者は信用できるのではないだろうか。


 一介のカヴァネスごときが偉そうなことは言えないけれど、ウォンシャー公爵は敵ではない気がする。


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