赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「ルゴーンは毒殺を図ろうとした可能性があるとして爵位を剥奪されたが、処罰を下したというより余計なことが大っぴらにならないよう誰かが庇ったように思える」
「同感だよ、スヴェン」
ふと苦笑するウォンシャー公爵の手に、布の塊が握られているのに気づく。
「あの、それは?」
気になったシェリーは、布の塊を見つめながら尋ねた。
ウォンシャー公爵は「あぁ」と思い出したかのように布の塊をテーブルの上に乗せて、中身を見せてくれる。
現れたのは、布に巻かれていたせいで傷んだ青薔薇だった。
「国王陛下が前王妃様に贈った薔薇らしい。報告に来た使用人から受け取ったんだけどね、なにか手掛かりになるんじゃないかって持ってきたんだ」
話によると前王妃を死に追いやろうとした薔薇は確か、城の庭園に咲いている青薔薇と同じだったはず。
でも、目の前にある薔薇は同じ青色でも庭園のものとは種類が異なる。どういうことかとシェリーは首を傾げて疑問を口にした。
「これは庭園の薔薇ではありません」
「なんだと?」
スヴェンは驚愕の表情を浮かべてテーブルの近くにやってくると、シェリーと薔薇を交互に見比べる。
「城の庭園に咲いているのはオンディーナといって、もっと花弁が少なく丸いんです。それに色も青みの弱い藤色をしてます。でもこの薔薇は花弁も多く先が尖っているし、青みも強い。これはターンブルーです」
オンディーナにそっくりだけれど、薔薇に詳しい者が見たら違いは明白だ。
それを聞いたウォンシャー公爵は拍手をして、軽い微笑を右頬だけに浮かべる。
「これは思わぬ朗報だよ。だとしたら国王陛下に薔薇を渡した奴が犯人ってわけだ。普通に考えたらルゴーンが怪しいんだろうけど、彼は今牢の中にいる」
そうだ。即位式に現れたルゴーンは国王を殺そうとした罪で投獄されているがゆえに、薔薇を渡すことはできない。
「では、誰がアルファス様を陥れたのだ」
議論はまた迷路に入り、スヴェンは額を押さえる。
(それにしても、薔薇が気になるわ)
ふと、この城に来たばかりの頃に部屋の前に青薔薇が落ちていたことを思い出す。