赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「そういえば、あのときの薔薇もターンブルーだった」
「シェリー、どうかしたのか」
呟きがスヴェンの耳にも届いたらしい。
不思議そうにこちらを見る彼に、部屋の前に落ちていた薔薇のことを伝えた。
「そういえば、お前が感じていた異変も薔薇のことばかりだったな」
以前にも話したことがあったので、スヴェンは思い当たる節がある口ぶりで言った。
「はい。もしその薔薇に意味があるのだとしたら……」
自分の部屋の前に落ちていた青薔薇や大広間に散っていた紫の薔薇の花弁、黄薔薇とナイフ。
前王妃の部屋にあった一本の赤薔薇と三本の黄薔薇の花言葉を思い出す。
「青薔薇は不可能を成し遂げる。散った紫の薔薇は王座が散る。黄薔薇の意味は平和ですが、ナイフが添えてあったことから平和の終わりを指しているのではないでしょうか?」
これはすべて、薔薇に込められた負の意味の抜粋だ。薔薇には良い意味もあるのであくまで憶測でしかないけれど、全く関係がないとも言い切れない。
「確か町の広場でルゴーンと対面したとき、王座を必ずや散らせよう。平和はこれで終わりを告げる……などと言っていたな」
顎に手をあてるスヴェンを横目に、ウォンシャー公爵は「ふむ」と首を縦に振ると、シェリーに片目を瞑って見せた。
「シェリー譲、お手柄だ。あながち薔薇の花言葉も馬鹿にできないね」
向かられる表情にどう返すべきか対応に困ったシェリーは「あ、あと……」と話を続行して、あえて触れないことにした。
「前王妃様の部屋の前に落ちていた薔薇のことなんですけど……。三本の黄薔薇の中に一本の赤薔薇。これはあなたがどんなに不誠実でも愛してる。それから本数ですが、四本は死ぬまで愛の気持ちは変わらないという意味があります」
この組み合わせは贈る相手の想いを無視して自分の愛を押しつけていることから、贈るには適さない。
「この一連の薔薇騒動の犯人は同一人物だろう。王座を狙い、アリシア様のことを慕っている者の仕業ということか」
考え込んでいるスヴェンが「まさか……」と言葉を零したとき、再び扉がノックされる。
部屋を訪れたのは、先ほど報告に来た騎士だった。
「大公殿下より、国王陛下の罪状を決める緊急議会の開催の知らせがありました」
「調査もなしに、そこまで話が進んでいるのか」
深刻な顔をするスヴェンに、ゴクリと喉を鳴らす。
アルファスの身になにかあったらと思うと、背筋が凍るようだった。