赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「覚悟はいいな」
「はい、スヴェン様。どこまでも共に参ります」
その答えに満足そうに頷いた彼に手を引かれ、部屋を出る。真っ先に目指したのはアルファスが捕らえられている地下牢だ。
牢に続く階段の両脇には監視をする騎士が二名立っている。そのうちのひとりがスヴェンに気づいてお辞儀をする。
「騎士公爵様がこのような場所に来られるとは、どうなされたのですか」
「大公殿下に頼まれて、国王陛下の様子を見に来たのだ」
堂々と答えたことが功を成したのか、騎士たちは疑いもせずに中へ通される。スヴェンと顔を見合わせて、緊張の面持ちで地下に続く階段を下りていった。
「見張りは階段前の二人とこの先の牢屋前にひとりだ。城の警備は俺が取り仕切っているから、間違いないだろう」
スヴェンはこの国の治安と軍事的権力を司る役割を担っているため、警備体制にも詳しいのだろう。
このような状況でも冷静さを欠かないスヴェンを頼もしく思いながら、その後ろをついていく。
牢屋前にやってくると、スヴェンの言った通り騎士がひとり見回りをしていた。
スヴェンはすかさず彼との距離を詰めると、騎士が振り返る前に「許せ」と言って頸部に手刀を打ち込む。
小さなうめき声をあげて倒れる騎士の体を受け止めると、冷たく湿った石床に横たわらせた。
シェリーは床に片膝をついて、騎士の腰にある鍵をくすねるスヴェンの側に寄る。
「その方は大丈夫なのですか?」
「気絶させただけだ。俺の大事な部下だからな」
騎士から視線を逸らすと、スヴェンは立ち上がった。
その背中はやはり苦しげで、部下に手をあげることに胸を痛めているのだとわかる。
なんて声をかけていいのか悩んでいると――。
「そこにスヴェンがいるのか?」
聞き覚えのある声が聞こえて、スヴェンと顔を見合わせた。
弾かれるようにある牢の前まで走ると、鉄格子と石壁に囲まれた牢の中で膝を抱えて座るアルファスの姿を発見する。
「よくご無事で……っ」
泣きそうになりながら鉄格子を掴むと、アルファスがこちらに駆け寄ってきた。
「シェリー、来てくれたんだなっ」
サファイアの瞳を潤ませて、シェリーの手の上から格子を掴むアルファスに「はい」と笑って見せた。