赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「アルファス様、ここから脱出しますよ」
牢の鍵を開けて、スヴェンはアルファスに手を差し出す。
「スヴェン、お前は僕のことを信じてくれるのか。聞いたんだろう? 僕が母様を……」
「当たり前です。俺が何年あなたに仕えてきたと思っているんですか。世界中の人間がアルファス様を疑っても、俺は味方です」
曇りないガーネットの瞳を見たアルファスは息を詰まらせて、差し出された手をギュッと握り涙をこぼした。
「僕の剣はお前だけだ。スヴェン」
「ありがたき幸せ」
恭しく頭を下げて先に歩き出したスヴェンは階段前で立ち止まると、腰に差している剣柄に手を添えてシェリーたちを振り返る。
「俺の背から飛び出すなよ?」
「は、はい!」
シェリーはアルファスの手を握る。なにがあってもこの手だけは離さないで走り続けようと覚悟を決める。
「行くぞ」
駆け出したスヴェンの後を追いかけると、やがて階段の上が見えてくる。
先ほど会ったふたりの騎士がこちらを振り返り驚愕の表情を浮かべた。スヴェンの背後にアルファスの姿を見つけたからだ。
「国王陛下がなぜここに!」
「ここから先はお通しできません!」
慌てて剣を抜こうとする騎士を前にしても、スヴェンは失速することなく走る。
「邪魔をするな!」
怒号とともにスヴェンは剣を抜き放つ。
その気迫だけで騎士たちは腰を抜かせてしまい、スヴェンはすかさず背後に回って、うなじに手刀を打ち込む。
気絶する騎士の横を駆け抜けて、シェリーはたちは城の裏門を目指す。
「はぁっ、スヴェン様! 馬車は……っ、城の裏手にある森の入り口に停まっています!」
「了解した。裏門にも二名の騎士がいる。一気に通り抜けるぞ」
息を切らしているシェリーとは違って、スヴェンは戦いながらだというのに余裕そうだ。
それはアルファスも同じで、訓練しているからなのか呼吸が乱れていない。
「シェリー、大丈夫か?」
「はい、すみませんアルファス様」
足をもつらせそうになるシェリーの手を、今度はアルファスが引いてくれる。