赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「気にするな。シェリーは命がけで僕を守ってくれただろ。今度は僕もシェリーの力になりたい」
こういう台詞をいつの間に言えるようになったのだろうか。ふとした瞬間にアルファスの成長が感じられて、やはり彼は善き国王になるお方なのだと信じられた。
順調に門番も気絶させて、スヴェンを先頭に森の入り口へとやってくる。馬車の前でハンスが手を振っていた。
「シェリーお嬢様、早いお戻りで」
「ごめんなさいハンス、説明している暇はないの。とにかく、馬車を出してちょうだい。それで、できるだけ城から離れて」
捲くし立てるように言うと、ハンスは目を丸くしていたが、ただ事ではないことを悟ってすぐにうなづいてくれた。
シェリーたちが乗り込むと、すぐに馬車は森の中へ向かって走り出す。
正面に座るスヴェンとアルファスに「この後はどうしましょう」と声をかけた。
「お前の邸は真っ先に追っ手に気づかれるだろう。どこか、身を隠せる場所があればいいのだが……」
外を警戒しながら頭を悩ませているスヴェンに、シェリーは閃く。
「あの、ローズ家の別荘はどうでしょうか? 町境の森の中に長らく使っていない別荘があるのです」
今住んでいる邸は郊外とはいえ、馬車で数十分で城下町に着く。仕事も人口の多い城下町に集まるので、ほぼ隣町に近い場所にある別荘はここ何年も使っていなかった。
「あそこなら人気もないですし、城の追手もすぐには見つけられないのでは?」
三ヶ月に一度、掃除をしに帰っているのだが頻度が足りないのか、どの部屋も扉の立て付けが悪く床も軋むし状態は悪い。
国王陛下に公爵という高貴な方を泊めるのにはいささか勇気がいるが、命がかかっているのだ。背に腹は代えられない。
「それは、名案だな。世話になってもいいか?」
「もちろんです」
シェリーはすぐにハンスに行き先を伝える。馬車で行くと三時間半ほどかかってしまうのに、快く引き受けてくれた。
「追手もいないようだな」
馬車の窓から外の様子を窺っていたスヴェンが視線をこちらに戻すと、ひと息つく。
それにつられてか、アルファスの顔にも安堵の色が見えた。張りつめていた空気が少しだけ和らぎ、お互い顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「アルファス様、ひどいことはされていませんか?」
見た感じ怪我はしていないようだったけれど、心配になってその小さな手を包み込むように握る。