言い訳~blanc noir~
「うんざりしてるの?」


「してないよ」


「嘘つき。顔にうんざりって書いてるじゃない」


「……もうさ、こういう話題やめないか? せっかくおめでたい日なのに何で俺と美樹ちゃんがケンカしないといけないんだよ」


「椎名さんがはっきりしてくれないからでしょ? うんざりなのは私のほうよ。私、椎名さんの何なの?」


「彼女だよ」


―――彼女? だったら何でそんなに疎まし気な顔をするの?

 美樹は「彼女」だけでは満足ができなかった。


「彼女っていう名の都合のいい女でしょ? 最近会っても素っ気ないし、電話も前みたいに盛り上がらないし、メールだってくれない日があるし。先を考えられない女なんだよね? 私って」


 アルコールも手伝い、顔を真っ赤にさせた美樹が声を荒げた。

 通行人が突然始まった恋人同士の口論を好奇の目で眺めながら通り過ぎて行く。


「私の事好きじゃないんでしょ? だからそんな態度取るんでしょ!」


「いい加減にしろよ!!」



 腹の底に押しこんでいた言葉が一気に突き破るように和樹の口から飛び出した。


 美樹が驚いたように目を丸くさせている。

 その姿を目にした瞬間、しまったと後悔の念が和樹に押し寄せた。


 美樹の大きな瞳に涙が滲んでゆくのがわかった。


「ごめん」


「もういい!! 椎名さんなんか大嫌い!!」



 美樹はそう叫ぶと踵を返し、夜の街へと駆け出した。
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