言い訳~blanc noir~
 追いかけろよ。

 追いかけて「ごめん」って一言謝ればそれで解決する話だろ?


 頭の中で声がする。


 だけど気持ちがそれを拒絶するかのように、和樹の足は一歩も動かなかった。




 負けん気が強くてプライドが高くて少しわがままな美樹の性格は決して嫌いではなかった。

 美樹の前に何人か恋人関係にあった女はいたが皆、美樹とは正反対の控え目で言葉数が少ない女ばかりだった。

 好意を寄せられて付き合い始めるが、どうしても相手との感情のバランスが悪く、いつも微妙な温度差を感じていた。

 こちらから別れを切り出した事もあったし、相手から切り出される事もあった。

 特に揉めた事もない。

 ただ生活の中からその女に費やしていた時間と定期的にセックスする女がいなくなっただけで自分の生活に支障は何もなかった。


 美樹と別れたいわけではない。

 ただ美樹が自分を思ってくれるその気持ちが正直に言うと負担になってきているのは事実だ。

 美樹はこの関係の先に結婚を望んでいる。

 その気持ちは嬉しくは思うが、今すぐに形にしたいとは思えない。


 はっきりとした理由は自分でもわからないが、美樹と一つ屋根の下で共に生活をするとか、美樹との間に子供が欲しいとか、そういう願望が和樹にはまだなかった。


 美樹を妻に迎えるという事が想像がつかない。


 それは美樹に対して失礼な事なのだろうか。もう少しこのまま曖昧な関係でいる事は無責任な事なのだろうか。
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