言い訳~blanc noir~
「―――ご主人様」


 突然背後で沙織の声が聞こえた。慌てて振り返ると電柱の影から沙織が姿を現す。

 思わず胸を撫で下ろしてしまった。


「大丈夫ですか? 頬っぺた……」


「え?」


「ごめんなさい。気になったからマンション見に行っちゃいました」


 どうやら沙織に一部始終を目撃されていたらしい。和樹は言葉に詰まり、なぜか笑ってしまった。


「見苦しいところをお見せしちゃいましたね」


 沙織は眉を下げ困ったように顔を横に振った。


「頬っぺた大丈夫ですか……?」


 沙織の手のひらが、和樹の頬をそっと覆う。

 和樹の腕が伸び、沙織を胸に引き寄せた。


「えっ」


 沙織を抱きしめるとくぐもった声が胸にぶつかる。


「沙織、少しだけこのままでいさせてください」


 耳元で囁くと沙織は和樹の胸の中でくすっと笑った。


「寒いからお家に入りましょ?」


「遠回しに嫌がってますか?」


「はい」


 その返事に和樹がふっと腕の力を緩めた。

 沙織が笑いながら和樹を見上げて、猫のように目を細めた。


「嘘です」


 沙織は胸に顔を埋め、和樹の背中に両腕を回した。
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