言い訳~blanc noir~
「椎名さんは狡いね。何も答えない事が優しさだって思ってるなら大きな大間違いだと思う」


 美樹は床に置いていたセリーヌのバッグを持ち上げると、中から小さな箱を取り出し、和樹に差し出した。


「誕生日にもらってた指輪返す。あとこのコートも椎名さんに買ってもらったからいらない」


 美樹はコートを脱ぐとそれも和樹に差し出した。


「寒いから着て。家に帰って処分したらいいだろ?」


「もう他人なんだから別に私が風邪ひいたって椎名さんには関係ない」


 美樹はそう呟くと薄いブラウスに黒いタイトスカートだけの薄着でエントランスを飛び出した。


「美樹ちゃん!」


 美樹を追いかけ、腕を掴むと鋭い眼差しが和樹に突き刺さる。


「……風邪ひいたらいけないから」


 美樹にコートを着せかけようと、肩に腕を伸ばすと美樹に「やめてよ」と払いのけられた。

 次の瞬間、美樹が右手を振り上げた。


 頬に熱が広がる。

 そこでようやく美樹に頬を叩かれたのだとわかった。


「ほっといてって言ってるでしょ!?」


 美樹がそう吐き捨てると、そのまま和樹の隣を通り過ぎ、かつかつとヒールを鳴らしながら歩き出した。


 振り返ると和樹の車の真横を美樹が通り過ぎようとしていた。

 そこではっとした。


 美樹に沙織の姿を見られるのではと慌てて視線を助手席に向けた。

 しかしそこに沙織の姿はなかった。


 沙織?


 辺りを窺っていると、ちょうど通りかかったタクシーに手をあげ美樹が乗り込んだ。

 こちらを振り返る事もなく、美樹を乗せたタクシーはエンジン音を響かせ走り去って行った。
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