あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
現実


光希歩が全てを話し終えた頃には、既に十一時をまわっていた。

静かなこの街に、光希歩のすすり泣く声だけが響く。

あまりにも甚大な出来事に、俺は言葉を失った。

同じ日本なのに、住んでいる場所が少し違うだけで、ここまで違うのかと。

常に、生死と戦っている彼女。
当たり前のような日常を平々凡々と過ごす俺。

以前聞こえた妹の声も、本当の妹でないなんて。

「どうして、あんなことが起こっちゃったのかな。あの日、私の誕生日でなかったら。きっとカクは私に告白しようなんて思わなくて、まっすぐ家に帰って、無事だったのかもしれないのに」

あの日からだ。
光希歩の心の時間(トキ)が止まったのは。

どうしてその時、俺は光希歩のそばにいなかったのだろう。
いや、そう考えたところで、過去を変えることなんてできない。

俺はあの日、地震があったことなんて気付かなかった。
ただ走って家に帰ってきて、遊びに行った。
帰ってきたら、母が唖然としながらテレビをつけているのを見てようやく知った。

光希歩が生死をさまよっている間、俺は呑気に遊んでいた。

その時の俺を殴ってやりたくなった。
悔しい気持ちで、制服のズボンをグッと掴む。

「ごめん」

ぽつりとそう呟いた。
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