あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
「どうやって生きていくかって?私は…いつだって死んでもいい。その時はその時よ」

光希歩に、どう心を鬼にして未来のことを語ったところで、結局彼女をあの日に戻してしまうだけなんだ。

でも、いつ死んでもいいなんて、本当は思ってないんだろ?

「海光ちゃんは?残される辛さをわかってんのに、海光ちゃんを置いていくんか」

再び光希歩は口を閉じた。
人は、人によって、わかっているのにわかっていなかった部分を理解することができるんだ。

「海光ちゃんは、失ったらあかん大事なもんなんやろ?それやったら、この家がどうなっても二人で生きていけるように、海光ちゃんを守って過ごせるようにせなあかんのちゃうん」

すると一瞬力を緩めたタイミングを見計らってか、俺の手を思いっきり払い除け、「わかってるよ!」と言い、部屋へ閉じこもってしまった。

精神的に少しきたが、今まで負ってきた光希歩の心の傷に比べれば、こんなの比ではない。
こればかりは、俺も諦めてはならないと思った。
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