冷たい君の不器用な仮面
「あの…所で、何で私をここへ…?」




私はここに来るまでずっと気になっていたことを口に出す。




すると男の人はニコッと笑顔を向け、私にお茶を注いで目の前に座った。





「説明が遅れてごめんね。俺は成瀬ユウ。レイの兄だよ」




……成瀬ユウ






成瀬にお兄ちゃんだったんだ、この人。なんか雰囲気似てると思った。





でもずいぶんと歳が離れてるんだな。





私が見たところ、20歳半ばくらいに見える。





いや、ただ大人っぽいだけかもしれないけど。





でも、机に上に置いてあるタバコに手をかけている姿を見ると、やはり20歳は超えているようだ。





……ていうか成瀬の下の名前ってレイって言うんだ。




私はクラスメートの名前すらまともに覚えていない自分に、内心がっかりする




「それでね、君をここに連れてきた理由なんだけど」






ぼんやりとしていた私はハッと意識を現実に引き戻す。




そうだった。
わざわざ学校まで来て呼び出すくらいの用事だ。





相当な事に違いない。





私はゴクリと喉を鳴らす。





男の人がゆっくりと口を開いた。





「君にお礼をするためだ。」





ユウはあっけらかんと笑顔で答えた。





……えっ…お、お礼……?





予想外の言葉に、私は口をぽかーんと開く。





え、てっきり私、成瀬のケンカのこと黙ってろとか、そういう口封じするためにわざわざここまで連れてきたのかと思ってた。




それか、あのあと成瀬が帰らぬ人になったとか、そういう報告かと……





なのに……ただにお礼のためだったなんて。





私はそんな事のために、わざわざ学校を早退してきたのか




私はなんだかバカバカしくなって、ハアッと息をついた。




「あはは。ごめんね、こんな事で学校にまで押しかけちゃって。」




ユウは私の不機嫌な顔に気がついたのか、私に眉を下げながら謝る。




いえ……もう…気にしてないです





私は語尾を小さくしながらボソッとつぶやいた。






するとその瞬間、ユウはパチンッと指を鳴らした。






私はパッとユウに目を向ける。





「チッ……んだよ」






ドアを乱暴に開け、誰かが不機嫌そうに入ってくる。






ーーーその正体は、レイだった。






傷口を包帯で覆い、痛々しい姿のレイ。
私はビックリして目を大きく開く。






いたんか!早く出てこいよ!!






レイは明らかに不機嫌な表情を浮かべ、ユウを睨む。




「そんな睨むなよ。ほら、お前の命の恩人連れてきたからお礼いいな?」





ユウは諭すようにレイに話しかける。






レイはギロッと鋭い目つきで私を睨むと、何も言わずにそのまま部屋から出て行ってしまった。
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