私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
「おふくろ見て逃げた。…信じたくなかった。おふくろはいつも笑ってて、すごい強い人だった。だから…いや、全部言い訳だな」
「…季龍さんのお母さんは、強い人だと思います」
季龍さんから視線を外し、目を閉じる。
病室を出る間際にみたあのノート。何にもなかったあの病室に唯一あった、何の変哲もないノート。でも、あれは季龍さんのお母さんの意思だ。
「病室に、ノートがありました。1冊だけ。どこにでもありそうな大学ノートです」
「何が書いてあった?」
季龍さんを見上げる。少し怯えているような、そんな目。
その不安を和らげるように笑みを向ける。
「“きりゅう わたしのむすこ”“りりか わたしのむすめ”」
「ッ…」
「“あいたい”」
文章にはなっていなかった。たくさんの単語が並んでいた。そのほとんどが、季龍さんと梨々香ちゃんの名前。
季龍さんのお母さんは忘れていない。季龍さんのことも、梨々香ちゃんのことも。自分の子どものことを、愛してる子を、憶えている。