副社長と恋のような恋を
「別に深い意味はないんです。私、これでも新人賞を取って作家デビューしているんです。その受賞式の日にインフルエンザにかかってしまい式に出られなくなって。それ以来、特に人前に出るような話もなかったんで、結果、覆面作家になったんです。もし、あの日、授賞式に出ていたら私の作家人生が変わったのかなって思うこともあって。まあ、それぐらいで筆の力量なんて変わらないんでしょうけど。私、才能ないのかもな」
初めて会う人、二度と会うこともない人だと、本音がするすると出てくる。自分に才能がないなんて人前で言ったことはなかった。角田さんや出版関係の人にも、作家であることを知っている家族にも。
そんなことを言って、そうだねと言われるのが怖かった。とても細い糸の上を歩いて、グラグラと揺れながら作家人生を歩んできた。そんなことを言われれば簡単に糸の上から転げ落ちてしまう。
「作家をやって何年?」
「今年で五年目です」
「仮に、あなたに才能がなかったとしよう。それでも五年作家を続けられているのなら、それも一つの才能だよ。十年以上、結果がでなくても小説を書き続けて、賞を取った作家さんだっている。天才でなければ秀才になればいい」
初めて会う人、二度と会うこともない人だと、本音がするすると出てくる。自分に才能がないなんて人前で言ったことはなかった。角田さんや出版関係の人にも、作家であることを知っている家族にも。
そんなことを言って、そうだねと言われるのが怖かった。とても細い糸の上を歩いて、グラグラと揺れながら作家人生を歩んできた。そんなことを言われれば簡単に糸の上から転げ落ちてしまう。
「作家をやって何年?」
「今年で五年目です」
「仮に、あなたに才能がなかったとしよう。それでも五年作家を続けられているのなら、それも一つの才能だよ。十年以上、結果がでなくても小説を書き続けて、賞を取った作家さんだっている。天才でなければ秀才になればいい」