副社長と恋のような恋を
「これはこれ以上ない最高のカクテルということに由来して、アルファベットの終わりの三文字をつけているんだ。いつか君が自分でこれ以上にない最高の小説を書いたという日が来ますようにっていう願かけかな」

 そんな日が来たらいいと思う。でもそうなったら自分は筆を折るのだろうか。それもともエッセイやコラムといった別のジャンルへ進むのだろうか。いつかそんな小説を書きたいが、少し怖くも感じた。

「ありがとうございます」

 なんとも言えない感情を打ち消すようにハッピーバースデーのチョコレートを口へ放り込んだ。

「このホワイトチョコレート、よかったらどうぞ」

「それは君の誕生日のためにあるんだろ」

「美味しいものをひとりで食べるより、誰かに美味しいねって言いたいんです。これも誕生日プレゼントと思ってください」

 彼は頂くよと言って、細く長い指でそれを詰まんだ。口に入れ、味わうようにゆっくりと噛んでいる。

「うん、美味しいチョコレートだね」

「ね、美味しいでしょ」

 私が笑って言うと、彼も笑顔で頷いた。

 カクテルも飲み終え、そろそろ帰りますと彼に声をかけた。

「そう。駅まで送ろうか?」

「駅は目の前ですよ」

 窓の向こうに目をやると、彼はそうかと返した。
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