副社長と恋のような恋を
 顔はほとんど映っていなかった。耳から頬にかけのフェイスラインが見えるくらいで、誰がモデルをしているかなんて、わからないだろう。

 バージンロードを歩く後ろ姿。神父様の前に並ぶふたり。指輪交換をする手元。

 前に想像したことが写真の中で繰り広げられていた。ずきりとした胸はキリキリと痛みだし、頭の中はじりじりと熱かった。

 変に低い声になったり、感じ悪い雰囲気になったりしないように気をつけながら、なるべく明るい声を出す。

「いい写真だね。これがどんなふうに使われるか楽しみです。でも、小野さんは大丈夫でしょうか。ウェディングドレスを見ただけで泣いちゃうなら、こういう写真でも泣いちゃうんじゃない?」

「本人は今日、充分泣いたからもう大丈夫だとは言ってたけど」

「失恋って、大人になったときのほうが堪えるってこと意外とありますからね」

 副社長はそうだなと言いながら、スマホを引っ込めた。画面を見ながら、もう十月かと呟いた。

「ああ、これぐらいで疲れたって言うようになるよな」

「どうしたの?」

「自分もいい年なんだと思って」

「急にそんなことを?」

 スマホをしまうと、困った顔で頭をかいている。そしてなんとも言いにくそうに一言言った。
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