副社長と恋のような恋を
 副社長は私の片手を持ち上げた。そしてもう片方の手が重ねられた。一瞬、手を引っ込めてしまいそうになったけれど、麻衣と呼ばれたら不思議と体の力が抜けた。そして副社長の手がゆっくり離れた。掌に残ったのは鍵だった。

「ここのマンションの合鍵。七日の日は、麻衣に出迎えてもらいたいなと思って。その日会議があるから、一緒に帰れないし」

「うん。じゃあ、鍵お預かりします」

「いや、持ってていいよ。好きなときに来ていいから」

 照れながら話す副社長を見ていたら思わず、抱きついてしまった。急なことで副社長の体が強ばった。でもすぐに力は抜け、私の背中に手が回る。

「写真」

 私がぽそっと言った言葉を、副社長は「うん?」と聞き返してきた。

「今日の写真、必要なくなったら消してね」

 そう言うと、副社長の体がゆっくり離れた。そして顔がゆっくり近づいてくる。無意識に目を閉じた。

 ただ唇が触れただけのキス。そこから少しずつ深くなっていく。お互いの息を飲み込むように唇を合わせた。体の一部しか触れあっていないのに、体中が副社長の体温に包まれているような、飲み込まれているような感覚になる。名残惜しさを残すようにチュッという音を立てながら唇を離した。
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