副社長と恋のような恋を
 ここにいる全員が、なんとも言えない表情になった。誰だってそうなるよね。副社長だよ。ただイスにふんぞり返っているような人なら、この機会に役職なしで呼んでやるという考えが出たかもしれない。

 でも川島副社長は違う。仕事はちゃんとしている。はっきり言ってとても有能な副社長だ。その人をさん付けで呼べるわけない。

 この状況を見て、この前の私の反応がどれだけ普通のことか思い知ればいい。

「では、右回りで順に自己紹介を」

 この空気を副社長は完全に無視した。

 副社長の右隣に座っていた人が、えっという顔を一瞬したが、すっと表情を戻して、自己紹介を始めた。

「広報の森本です。どうぞよろしくお願いします」

 森本さんが終わると、次の人へと回った。ウェブデザインの小野さん、デザインの山岸さん、そして村田先輩と私だ。

「自己紹介も終わったことですし、早速これを見てください」

 会議室の入り口に待機していた、副社長の秘書がA4サイズの黒い箱を持ってきた。それをテーブルの中央に置き、ふたを開けた。そこにはメンズ用とレディース用の腕時計が各四個並んでいた。

「これが過去に発売されたark限定モデルの時計です。今年はark誕生五周年です。今までにないデザインにしたいと思っています。こちらは、私が前の会社にいたときに手掛けたものです」
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