副社長と恋のような恋を
 クロノグラフは文字盤に三十分計や六十秒計や二十四時間計などの小さなストップウォッチが埋め込まれるため、どうしても時計自体が大きくなってしまう。腕の細い女性には少し扱いづらい時計なのだ。

 最近は文字盤の大きい時計もはやっているが、このクロノグラフが発売された年は小ぶりな時計のほうが人気だった。

 大きさの問題を解消するためにとった方法。それは厚みを減らすことだ。文字盤を小さくするのは限界があるため、時計の厚みをギリギリまで減らす。そうすることで腕にフィットする感覚を持たせ、女性でも使いやすくなっている。

 こういう感性をいまだに持っている社長を尊敬する。

 目の前にある時計を見るだけで、社長や副社長のすごさを実感した。

「どれもデザイン、機能ともによくできていますね」

 山岸さんの言葉には感嘆が含まれていた。そこにいる全員が小さく頷く。

「まあ、前作よいもいいものを作るのは当たり前のことですし、変に気負いするのはやめましょう」

 村田先輩の発言はとても冷静だった。時計を箱の中に戻し、副社長が口を開いた。

「村田さんの言うように気負いはしないでください。今だから作れるものをみんなで考えていきましょう。今日は時計のコンセプトを話していきたいと思います。時計の発売予定日は来年の五月、ジューンブライドに引っかけたいと考えています」
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