副社長と恋のような恋を
 こんな日はまっすぐに家に帰ってもいいことはない。部屋でうじうじして、ベッドに潜り込んで眠るだけ。気分を変えてから帰ろう。今日の最後がコンタクトを無くしたで終わらせたくない。やっぱり飲んでから帰ろうと思った、

 地下鉄を家に帰るときよりも一つ先で降りた。そこから歩いて五分の所に、私の寄り道スポットがある。

 駅前にある古いホテル。けっして古びたホテルではない。由緒あるホテルだ。創業八十年で、お盆休みや正月休みなどの旅行シーズンになるとネットやメディアで、おすすめのホテル特集や一度は泊まりたいホテルといったタイトルで特集を組まれることも多い。

 このホテルの最上階の一つ下の階にあるバーが目的地。エレベータに乗り、バーを目指す。ドアが開くと黒を基調にした入り口がすぐに見える。

 バーに入り、窓に向かって設置されているカウンターに座り、バーテンダーに雪街月(ゆきまちづき)を頼んだ。

 窓の外をぼんやりと眺める。駅前の景色はライトで照らされていた。メガネを外し、バッグにしまう。すると夜景は、映画やドラマで観るようなキラキラした景色に早変わりする。

 目が悪くて不便なことはたくさんある。でも、夜景を一瞬にして映画の世界に変えてしまえるのは、目が悪くてよかったと思える数少ないことであった。
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