副社長と恋のような恋を
「お待たせしました。雪街月です」

 ストレートのグラスの直径に合わせた丸い氷とジンジャーエール色の液体が白い雪を連想させる。カクテルの名前通りの雰囲気だ。

 バーテンダーがおもむろに小さな小皿を目の前に差し出してきた。そこにはハートやバラの形をしたチョコレートが四つ載っている。

「頼んでいませんよ」

「井上さんからです」

 その言葉に小さく微笑んで、いただけますと言って、チョコレートを口に運んだ。少し苦みのある味が口に広がる。このカクテルにぴったりだ。

 過去にここを小説の中に登場させたことがある。ホテルとしてではなく、レストランや美術館という設定で。そのため、井上編集長や角田さんは、私がよくここに行くことを知っている。井上編集長は、それを察してもいた。

 随分とかっこいいことをする編集長だな、と思った。

 残り三つになったチョコレート。そのうち一つに書いてある文字。それを読むために少し目を細めた。

 カクテルを飲みながら夜景を楽しんでいると、隣に誰かが座った。席はそれなりに空いているのに、わざわざ隣に来なくてもと思う。

「隣いいですか」
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