副社長と恋のような恋を
「この曲線は無数の出会いを。赤い線は二人の出会いをイメージしています」

 それを見て、私はすごくいいですと思わず言ってしまった。

 村田先輩はありがとう、と嬉しそうに言った。

「いいですよ、それ」と小野さんが言う。

 森本さんは小刻みに頷いていた。山岸さんもべた褒めしている。

「ちょっといいかな」

 副社長の声で、静かになった。

「そのスケッチブックを貸してもらえますか」

 村田先輩はどうぞと言って、スケッチブックを手渡した。

 副社長はジャケットの胸ポケットからシャーペンを取り出す。そして、スケッチブックと向き合った。

 するすると動く副社長の手をみんなが無言で眺める。

「せっかくペアウォッチとして販売するんだから、こういう遊び心があってもいいんじゃないかな」

 副社長はそう言って、スケッチブックを見せた。村田先輩が描いた絵の横に、もう一つ時計が描かれていた。

 それには二つの時計を並べると赤い線がつながるようになっている。

「今回はペアウォッチと単体で発売するデザインを変えるほうがいいかもしれません。ペアを単体売りにしようとするからデザインが狭まってしまう。その代わり、数量限定発売にしましょう。売れ行きを見てクリスマスシーズンに再販をする。どうでしょうか」
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