副社長と恋のような恋を
 ああ、山岸さん、失恋確定だよ。あんなにあからさまに好きですって態度に出ているのに、村田先輩は気づいていないようだし、彼氏はいるし、ちょっと涙が出そう。

「あれ、酒井ちゃんどうしたの? 変な顔してるよ」

「あ、なんでもないです。キャッチコピーを考えていて」

「ご飯を食べてるときは仕事のことを考えるのは禁止。頭の中、リセットするのも大事だよ」

「そうですね」

 リセットどころか、人の恋愛事情でいっぱいです、とは言えない。山岸さんに素敵な恋が訪れることを祈ろう。

 食事を終え、スマホを見ているとメールが届いていた。副社長からだった。添付ファイルを開くとサボテンの写真が出てきた。

“副社長室にあるサボテンの花が咲いた”

 まるで頭に赤い髪飾りを付けたようなサボテンの写真。この写真をどんな顔で副社長は撮ったのだろう。

“かわいいですね、サボテンの花。滅多に咲かないから、いいことがあるかもしれませんよ”

 そう返信して、スマホをテーブルに置いた。

「なんだ、酒井ちゃんも彼氏いるんだ」

「えっ! なに言ってるんですか」

 突然の話にびっくりして声が裏返った。

「いや、ずいぶんと乙女な顔でスマホ見てたから。彼から連絡でも来てたのかな、と思って」
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