副社長と恋のような恋を
「違いますよ。男友達です」

「あ、まだ付き合ってないんだ。片思いなんだね」

「違います」

「顔、赤いよ。二十代半ばになったら、自分の恋心は早めに認めたほうがいいよ。二十代半ばになるとね、時間が進むのがすごく早いから。はっきり言って、好きじゃないんですとか否定している間に三十路目前になるよ」

 あまりにリアルな言葉に思わず頷いた。

「私さ、酒井ちゃんみたいに好きなのに好きじゃないって言い聞かせた恋があったんだ。気がついたら、その人結婚しちゃった。すごく後悔したんだよね。だから好きになったら素直になろうって決めた。おかげで年下の彼氏ができたよ」

 年下の彼氏というワードに思わず心の中で、山岸さーんと叫んだ。あなたも恋愛対象になったかもしれないのに。人生ってうまくいかないものだなと思う。

「ありがたいお言葉ありがとうございます」

「いえいえ。酒井ちゃん、ファイト!」

 大きく勘違いされているけれど、もういいや。とりあえず、いろいろ頑張ろう。

「はい、頑張ります」

「うん」

 私たちはトレーを返し、社食の前で別れた。

 席に戻ると、また副社長からメールが来ていた。

“日曜日、会いたい”
< 77 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop