きらり、きらり、
敷地を出て右に曲がると大きな通りに出る。
私はその通りを起点にしてどこにでも向かうのだけど、小川さんは左に曲がって細い通りを進んで行く。
「え? こっち?」
この辺りは住宅街で、一見すると碁盤の目状なのだけど、行き止まりがとても多い。
目印もほとんどなく、うっかり踏み込むと痛い目を見るので、私はほとんど通ったことがない。
「こっちの道の方が静かですよ。あと、ガーデニングを趣味としてるお宅があるので、見ていて楽しいです」
「へえー! 詳しいんですね」
「……誰だと思ってるんですか」
「あ、そっか」
細く狭く入り組んだ道は、ご近所であるにも関わらず私の知らない場所だった。
そして小川さんにとっては、何百回と通った仕事場。
「わあ、本当にすごいお庭」
車を脇に停めてくれたので、立木の間からしっかり見えた。
緑と岩を基調によく手入れされた見通しのいい庭。
暮れかけた光の中でも、芝や葉の緑が清々しい。
水音もするから、池もあるのかもしれない。
「よく刈り込まれてるでしょう? 旦那さんの趣味なんだそうです。だけど毎日毎日刈るものだから、いつも刈りすぎて、ちょっと形が歪つなんですよね」
「愛情は感じます」
「はい。毎日見ても飽きません」
「こっちの、白いお花はかわいい」
「キョウチクトウだそうです。かわいいけど強い毒があるから、絶対触るなって言われてます」
庭の自慢を笑顔で聞く小川さんが目に浮かぶようだった。
きっと荷物を持ってあげたり、代わりにお菓子やお茶をもらうことも日常茶飯事。
私にとっては特別なことでも、小川さんには仕事の延長でしかないのかもしれない。