きらり、きらり、


龍華苑は個人経営のお店ながら、そこそこ広いフロアと親切な従業員のいる人気の中華料理店だ。
壁とイスはやわらかな白、床とテーブルは深い焦げ茶色をしていて、スタイリッシュな印象もある。
だから、どちらかというとサラリーマン向けの店なのに、女性人気も高い。

「えー! 待って待って! どうしよう。うーーーん」

よく考えたら必死に洋服を探すあまり、お昼はコーヒーしか飲んでいなかった。
店内に充満する香ばしい香りと、メニューの写真で空腹を思い出した。

「別に急かしてないから。ゆっくりどうぞ」

小川さんは壁に貼ってあるメニューやお知らせを読みつつ、冷たいジャスミンティーを飲む。
からんと氷の音がしたから、それも飲み干してしまったらしい。

「この唐辛子マーク3つってどのくらい辛いと思います?」

不穏に赤黒い〈麻婆担々麺〉を指差すと、小川さんは「どのくらいって言われてもなあ」と困った笑顔を浮かべた。

「食べられなくはないんじゃないですか?」

「でも、普通の担々麺は唐辛子マーク1つなのに。3倍辛いのかな?」

「いつもは?」

私は〈あっさり醤油ラーメン&餃子セット〉を指差す。

「前来たときは担々麺なかったんです」

小川さんは頬杖をついてメニューをパラパラめくる。
何度か行き来したあと、

「俺が醤油ラーメンを頼みます。ミナツさんは麻婆担々麺にしてください。一口食べて無理そうなら交換しましょう」

とメニューを閉じた。

「そんなの申し訳ないです! だったら最初から醤油ラーメンにしますから! 小川さんは小川さんのお好きなものを頼んでください」

「俺の本命はエビチャーハンと黒豚餃子ですから大丈夫です」

にっこり笑って呼び鈴を押されてしまったので、私は黙って小川さんが注文するのを見ていた。

「食前に桂花陳酒と食後に杏仁豆腐をお願いします」

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