大江戸ロミオ&ジュリエット

◇雪消の場◇


(あく)る日、新しく与えられた部屋は()の方角に近いため、いくら朝に強くない志鶴でも、さんさんと差し込む朝日に起こされた。

身支度をして、隣の夫の寝間へ参る。


本来、夫婦(めおと)其々(それぞれ)の寝間はもっと離れている。

皆が寝静まった宵闇の中、妻が夫の寝間へ呼ばれて参るのだが、夫婦の秘事(ひめごと)の有無を明らかにするその姿は、屋敷の者には見られとうないものである。

特に、歳をとって(かわや)が近い舅や姑と廊下などで会わぬように、用心しながら参るものであるが。

こうも夫婦の部屋が近いと、だれにも会うことはないが、その代わり毎晩秘事があるからではないか、と思われはしないか。

志鶴は恥ずかしさで赤くなり、それ以上の気まずさで今度は青くなった。

……わたくしはまだ、生娘であるというのに。

だが、夫である多聞に訴えても、取るに足らぬことと一笑に付して頓着せぬであろう。


志鶴は次第に、多聞の気質がわかってきていた。

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