大江戸ロミオ&ジュリエット
「ち…舅上様。面をお上げくださりませ」
志鶴はそう云って、我が身をさらに深く平伏させた。
「……父上、面を上げられよ。
謝られておるのは志鶴なのに、その額が畳に付くくれぇになっちまってるぜ」
多聞が豪快に笑った。
父親に対しては、ほぼ町家言葉である。
「此度のことは、我が松波の面目に関わることであるからな。実家の佐久間殿にはなんと云って顔向けをすればよいか」
源兵衛は腕を組んで、顔を顰めた。
「我が妻の富士には、わしと多聞とできつう云い聞かせたゆえ、此度のことはどうか水に流してくれぬか」
「姑上様とは、嫁入り早々かようなことになり、我が身の至らなさを恥じておりまする。
何卒、義母上様をお責めになりませぬよう、伏してお願い申し上げまする」
志鶴はまた、深々と平伏した。
「……志鶴、顔を上げな」
志鶴の傍らに来た多聞がやさしくその肩を取り、面を上げさせた。
だが、志鶴にはもし機があらば、これだけは云うておきたいことがあった。
「これしきのことは、北町から南町に嫁入ることになった時分から、元より覚悟の上にてござりまする。実家もそのつもりでわたくしめを嫁に出してござりまする。
どうか……お気になりませぬよう」