大江戸ロミオ&ジュリエット

「ち…舅上(ちちうえ)様。(おもて)をお上げくださりませ」

志鶴はそう云って、我が身をさらに深く平伏させた。

「……父上、面を上げられよ。
謝られておるのは志鶴なのに、その額が畳に付くくれぇになっちまってるぜ」

多聞が豪快に笑った。
父親に対しては、ほぼ町家言葉である。

此度(こたび)のことは、我が松波の面目に関わることであるからな。実家(さと)の佐久間殿にはなんと云って顔向けをすればよいか」

源兵衛は腕を組んで、顔を(しか)めた。

「我が妻の富士には、わしと多聞とできつう云い聞かせたゆえ、此度のことはどうか水に流してくれぬか」

姑上(ははうえ)様とは、嫁入り早々かようなことになり、我が身の至らなさを恥じておりまする。
何卒(なにとぞ)、義母上様をお責めになりませぬよう、伏してお願い申し上げまする」

志鶴はまた、深々と平伏した。

「……志鶴、顔を上げな」

志鶴の傍らに来た多聞がやさしくその肩を取り、面を上げさせた。

だが、志鶴にはもし機があらば、これだけは云うておきたいことがあった。

「これしきのことは、北町から南町に嫁入ることになった時分から、元より覚悟の上にてござりまする。実家もそのつもりでわたくしめを嫁に出してござりまする。
どうか……お気になりませぬよう」

< 126 / 389 >

この作品をシェア

pagetop