大江戸ロミオ&ジュリエット
「起っきゃがれっ、多聞。
良き妻をもらったな、とニヤけてる場合か」
舅にかようなことをしれっと云われ、志鶴の頬が朱に染まる。
「……『北町』に出し抜かれて、大捕物で手柄をあげられちまったこと、忘れたんじゃねぇだろな。御奉行から厭味を云われた、おれの身にもなってみろってのよ」
源兵衛が苦虫を噛み潰したような顔になる。
口調はすっかり町家言葉だ。
「忘れちゃいねぇよ、お父っつぁん。
……大店の廻船問屋『淡路屋』の押し込み強盗を手引きしやがったのが、主人の後妻だったっつう捕物だろ」
如何なるときも余裕綽々に見ゆる多聞でも、しのぎを削る相手が手柄を立てたとあっては、つい焦りを感じて知らず識らずのうちに眉間にしわが寄る。
先日、北町奉行所が、淡路屋の主人の歳の離れた後妻を自白として尻尾を掴み、強盗に関わった者たちを一網打尽にしたという話だ。
捕縛されたのは、老舗の大店相手に次々と強盗を働き、江戸中の大店を「次はうちではあるまいな」と震え上がらせていた盗賊一味であった。
「北町」の大手柄に、町家の連中はやんやの喝采である。