大江戸ロミオ&ジュリエット

「……『南町』にあのような(なり)でお越しござって、如何(いか)ほど驚いたことか」

志鶴は、尚之介が変装(やつ)した「髪結い」を思い出して云った。

尚之介は本職と見間違うほどの手捌きで、多聞の髪を仕上げていた。きっと、町家に潜むために鍛錬したに相違ない。

「うちの旦那さまの御髪(おぐし)を整えてくださり、ありがたく存じまする」

志鶴は、ふふっ、と笑った。

逆に、尚之介の面立ちは、せつなげに歪んだ。

「……かように痩せて……無理に笑うてくれるな……」

尚之介の手が伸びて志鶴の頬に触れる寸前、はっと正気に戻ったその手が止まった。

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