大江戸ロミオ&ジュリエット
「……志鶴殿、周りの者のことを慮って我が身を削るのは、金輪際、やめてもらいとうござる」
尚之介にはすべてお見通しのようであった。
志鶴は、くすり、と笑った。
「それは……尚之介さまも、同じではござりませぬか」
尚之介が虚を衝かれて、困った顔になる。
御家のために、おのれを捨てて同心になったのだから、志鶴のことは云えぬ。
本日の尚之介は、幼き頃より知っているはずの志鶴が見たことのない面立ちばかりを見せていた。
「……そろそろ、刻でござるな。
これ以上おぬしを引き留めると、仔細を知らぬままに銭で動いただけの駕籠かきが怪しまれる」
尚之介の顔がにわかに引き締まった。
「さすれば、尚之介さま、此度は我が身のことで御足労をかけ、誠にありがとう存じまする。
これからも、尚之介さまが御役目に精進されますよう、また御達者で過ごされますよう、日々お祈り奉りまする」
最後に、志鶴が深々と一礼した。
「しからば……此れにて御免」
島村 尚之介は踵を返して、仕舞屋の裏口へ向かった。