大江戸ロミオ&ジュリエット
今日、妻の志鶴が青山緑町にある医師の竹内 玄丞の元へ、薬をもらいに行くと云うので、多聞はわざわざ最寄りの番所(交番)に詰めていたのだ。
まだ身体が本調子ではない志鶴が、ただただ心配だったゆえである。幸いなことに、今月の月当番は「南町」だった。
だが、平生番所に詰めているのは同心や、その同心から私的に雇われている岡っ引きや下っ引きの連中である。
与力が平生詰めているのは町奉行所で、御用でもないのにわざわざ番所にやって来ることは絶対と云っていいほど、ない。
ゆえに、岡っ引きや下っ引きにとって、与力は雲の上のお人だ。しかも、多聞は巷で評判の「浮世絵与力」である。
「だ…旦那、お…お茶をどうぞ」
下っ引きが湯呑みに茶を注いでくれた。
差し出す手が、緊張のあまり震えている。
「ば…馬鹿野郎っ、気の利かねぇヤツだなっ。旦那のために、酒の一本くれぇ買ってくんなっ」
岡っ引きが、下っ引きの頭を叩いた。