大江戸ロミオ&ジュリエット

深い漆黒の闇の中、(くるわ)の軒に沿ってずらりと並んだ赤い提燈(ちょうちん)がぼおっと浮き出るように灯された幻想的な(よひ)とは違い、昼間は太陽の明る過ぎる光に照らされて、廓の多くが実は古びて安普請な建物であったことがあからさまに(さら)されていた。

それでも、ちゃんと「商い」はされている。
宵闇に紛れた夢心地とは程遠い昼間は、揚代(あげだい)がお得になっていた。

まぁ……気に入った女郎としっぽり(ねや)の中に入っちまえば、宵であろうと昼日中であろうと同じなのだが。


多聞は、大見世が建ち並ぶ江戸町二丁目の裏手を一人で見廻っていた。

「浮世絵与力」と呼ばれるのはまだ数年先の話であるが、表通りを廻っているとその頭抜(ずぬ)けた器量の良さから、籬の向こうの張見世の女郎たちが、
「もし、男前のお武家のあにさん、揚代(おあし)はいらんから上がっていきんす」と(うるさ)いのだ。

もちろん、多聞ばかりが声をかけられるゆえ、朋輩たちのやっかみもある。

また、多聞以外はすべて同心だ。
見習いが終われば、与力との差は歴然である。
しかもそれは「生まれ落ちた(ところ)での差」であって「実力の差」ではない。

表ではつつがなく多聞と接している朋輩たちも陰ではわからぬ。忸怩たる思いなのかもしれぬ。
ゆえに、一人で裏通りを巡った方が、気が楽なのだ。

一目で与力だとわかる(かみしも)肩衣(かたぎぬ)はつけず、多聞は着流しに袴姿で歩いていた。

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