大江戸ロミオ&ジュリエット
「すんません、お待っとさんで……」
おせいが戻ってきた。再び、茶の支度を始める。
「……若旦那、女房のおりつのことでやすが」
「北町」に捕縛された、淡路屋の後妻の名だった。尚之介はおせいがいる手前、すっかり町家言葉になっていた。
「いい歳した亭主が、おりつよりもさらに若いおなごに入れ揚げちまったそうでやす。
店を追ん出されて、そいつが後釜に座っちまったらどうしようって焦ってたおりつに、悪りぃ連中が近づいて来やぁがったんでさ。
そんでそいつらの甘い言葉につい引っかかっちまって、押し込みの手引きをする羽目になっちまった、って話でやす」
「……亭主への腹いせ、ってわけかい」
目を閉じたままの多聞が唸る。
「亭主が入れ揚げたおなごは、吉原の女郎でやす。押し込みに盗られた店は金子がすっかりなくなっちまって、おりつは巧くいった、これで亭主が女郎を身請するこたぁねぇだろよと、高を括ってたんでやすがね。
ところが、その女郎が明くる年、十年の年季が明けるってんでさ」
「へぇ……なんて名の女郎なのよ」
何気ない調子で、多聞は訊いた。
「北町」しか知り得ないことを知りたかった、というのもあった。