大江戸ロミオ&ジュリエット

「すんません、お待っとさんで……」

おせいが戻ってきた。再び、茶の支度を始める。


「……若旦那、女房のおりつ(・・・)のことでやすが」

「北町」に捕縛された、淡路屋の後妻(のちぞえ)の名だった。尚之介はおせい(・・・)がいる手前、すっかり町家言葉になっていた。

「いい歳した亭主が、おりつよりもさらに若いおなごに入れ揚げちまったそうでやす。
(たな)を追ん出されて、そいつが後釜に座っちまったらどうしようって焦ってたおりつ(・・・)に、()りぃ連中が近づいて来やぁがったんでさ。
そんでそいつらの甘い言葉につい()っかかっちまって、押し込みの手引きをする羽目になっちまった、って話でやす」

「……亭主への腹いせ、ってわけかい」

目を閉じたままの多聞が唸る。

「亭主が入れ揚げたおなごは、吉原の女郎でやす。押し込みに()られた店は金子(きんす)がすっかりなくなっちまって、おりつは巧くいった、これで亭主が女郎を身請(みうけ)するこたぁねぇだろよと、高を括ってたんでやすがね。
ところが、その女郎が明くる年、十年の年季が明けるってんでさ」

「へぇ……なんて名の女郎なのよ」

何気ない調子で、多聞は訊いた。

「北町」しか知り得ないことを知りたかった、というのもあった。

< 317 / 389 >

この作品をシェア

pagetop