大江戸ロミオ&ジュリエット
その刹那、閉じている多聞の目蓋が、ぴくり、と動いた。
「……髪結いさん、お待っとさんで」
おせいが尚之介に茶を差し出す。
「そしたら、淡路屋さんの旦那さんは、その『梅ノ香』って女郎と、気兼ねなく夫婦になれるってわけだ」
訳知り顔でおせいが口を挟んできた。
「先達て、押し込みの手引きをして奉行所にとっ捕まった淡路屋の女房の話だろ」
尚之介はおせいから茶を受け取りながら、
「そうさ……おめぇさん、なかなか物知りじゃねぇか」
そう云って、にやり、と笑った。
「……いやぁ……髪結い床ほどの噂話は入っちゃこねぇべ」
男前が好きなおせいは、頬を真っ赤に染め上げた。
尚之介は、おせいからもらった茶をくっと一飲みすると「ありがとよ」と湯呑みを返し、
「……では、若旦那、あっしはこれで。
明日はいつものヤツが来やすんで」
そう云って、松波の家を後にした。