大江戸ロミオ&ジュリエット

「志鶴は、生まれた子は里子にも出さず、おのれ一人で立派に育て上げる、と申すのじゃが。
……なぜ、あないにも(かたく)なに『離縁したい』と申すのか」

彦左衛門は閉じた扇子で首筋をぺちぺちと叩きながら、皆目困り果てた顔をした。

……生まれてくる子はどちらに似ても美形で有能であるに違いない、というのに。

彦左衛門はこれまでに、御役目上いろいろな者を見てきた。

多聞の容姿だけではない、度胸の良さからくる面構(つらがま)えも見破っていた。そこには町家での御役目で揉まれた面影があった。

ゆえに、間者として松波の家に潜ませているおきく(・・・)から聞く以上の多聞の姿を、()の当たりにした彦左衛門は、娘婿を手放したくなくて心中で歯ぎしりした。せめて、男女一人ずつは、多聞の子を志鶴に産ませたかった。


「佐久間殿、(せがれ)が不甲斐ないばかりに……面目のうござる」

源兵衛とて、彦左衛門と同じ心持ちであった。

犬猿の「北町」にもかかわらず、佐久間の家とは思いがけず良い親戚づきあいができそうであったものを……せっかくの縁組を整えてくれた、互いの御奉行にも申し開きできぬ。

源兵衛は、神妙な顔つきで隣に座す息子の、やたら整った面立(おもだ)ちに、却って無性に腹が立った。

……だが、しかし。

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