大江戸ロミオ&ジュリエット
「舅上……大層、御無礼仕り、恐縮至極にてござるが、ここで中座いたしとうござりまする」
そう云って、今まで黙っていた多聞が突如、がばりとひれ伏した。
かと思えば次の刹那、すくっ、と立ち上がり、座敷の外へ向かって、袴の裾を翻しながら大股で歩いて出て行った。
渡り廊下には、支度した銚子と盃を奉公人に持たせて参った母親の富士がいた。
ようやく蟄居が明けたばかりだった。
「……多聞ではないか、いずこへ参るのじゃ」
と尋ねられた声にも、ただ目礼するだけでなにも答えず、多聞は先を急いだ。