大江戸ロミオ&ジュリエット

尚之介は唖然として、心底驚いていた。
志鶴のかような様子は、初めて見たからだ。

幼き頃より知る志鶴は、いつも物静かで、決して心に波風を立たせることがなかった。
ゆえに、声を荒げる姿など、一度も見たことがなかった。

生まれ育った実家(さと)の家族にですら、我が身を犠牲にして遠慮するところがあったくらいだ。
だからこそ、犬猿の仲である「南町」へ嫁入る羽目に陥ったのである。

にもかかわらず、突然現れた「夫」には感情を昂らせて、おのれの思うさまを隠すことなく伝えている。

そして、多聞の方とて「妻」にまるで甘えるかのごとく心を委ねているように見える。

互いに心を預け合う二人は……正真正銘の「夫婦(めおと)」である、ということであろう。

尚之介は気づかれぬように、そっとため息を吐いた。

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