イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
どれくらい時間が経ったのだろう。泣き疲れた私は、いつの間にか眠ってしまったらしい。
重い頭を抱えながら顔を上げると、そこは薄暗い病室だった。目の前のベッドには、たくさんの管に繋がれた父が目を閉じて横になっている。
「そうだった。父さん……」
一気に現実に引き戻され、心がスッと冷えた気がした。
指先で頬に触れると、涙で濡れたままだった。きっとメイクもぐしゃぐしゃになっているだろう。
顔を洗いに行こうと、泣きすぎて痛む頭を押さえながら椅子から立ち上がると、半分開いたドアの向こうから、見知らぬ若い男の人が顔を覗かせていた。
「あの、こちらは藤沢圭吾さんのお部屋でしょうか?」
少し遠慮がちな、それでいて凛とした涼やかな声が、病室に響く。
「はい、そうですが……」
誰だろう。年齢的に見て、父の教え子だろうか。大学の卒業生とか?
でもどうやって、父がこの病院にいることを知ったのだろう。
私が首を傾げていると、男性は「……覚えてないのか」 とボソッと呟いた。