イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 父の元へ向かい、傍らのパイプ椅子に腰を下ろした。

「……ごめんね、父さん」

 寂しさを押し殺し、父の手を取って祈るように額を寄せた。


 仕事で土に触れることの多い父の手は、大きくてごつごつとしている。

 子どもの頃はよく父と手を繋いで歩いていたのに、こうして父に触れるのはいつぶりだろう。

 昔から変わらないその感触に、涙が溢れる。


「お願いだから、目を覚ましてよ」


 父が手を握り返してくれることはないけれど、皮膚を通してその体温を感じる。

 間違いなく父さんは生きている。でも、本当に私の言葉は、父さんに届いているのかな……。


 押し寄せる不安に耐え切れず、私はとうとう涙をこぼした。

 これまで我慢していたものが決壊し、あとからあとから涙が溢れてくる。

 父と二人きりになったのをいいことに、私は父の手を握り締めたまま子どものように泣きじゃくった。


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