イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
智明さんに連れてこられたのは、香月流本部ビルの十階にあるカフェだった。
本部内にあるとは聞いていたけど、私は中に入るのは初めてだ。
「これはお家元、いらっしゃいませ」
白髪の渋いウェイターさんが、お店の入り口で出迎えてくれた。
「おつかれ、木村。奥の個室借りるよ」
「かしこまりました」
案内され、個室に入る。十畳ほどのスペースにゆったりとしたソファーとテーブルのセットが置かれ、中はくつろげる空間になっている。
窓際の飾りテーブルには、少し高さのある透明なガラスの器にいけられた立派な藤の枝と板宿楓の作品が飾ってあった。
「葛城の作品だよ。品があるだろ」
「本当ですね。素敵です」
ピンと伸びた枝から垂れるまだ短く蕾がちの藤の花と若々しい板宿楓の組み合わせはさっぱりと美しく、清々しい。
「藤の花が開けば、今度は妖艶さが顔を出す。楽しみだな」